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紫色の月光

紫色の月光

第三十四話「デルタフォース」

第三十四話「デルタフォース」



 日本の東北と呼ばれる地方には青森と言う県がある。それなりにいい年をとった男、翔太郎は、男独り身で浮いた話もなく、一人青森の山の中で生活していた。

 そんな彼の人生と呼べるものを変えたのは、一人の不思議な赤髪少女との出会いだった。
 偶然山の中で出会ったわけだが、どうやら数日間何も食べてなかったらしく、見るのもかわいそうになるくらい痩せ衰えていた。

 あまりにも気の毒なので、その場で食べられる果物を与えてみると、少女は野獣のようにその果物に飛びついたと言う。
 
 名前や住所を尋ねてみると、少女は『わからない』と言った。何でもここ数日以前の記憶がないらしい。
 あまりにも不憫な話だったので、彼は果物を貪る少女にこう言った

『なんなら、ウチで暮らすか? 大丈夫、俺はロリコンじゃないからな」

 ロマンもクソもない出会いな訳だが、その日から翔太郎と少女の奇妙な生活が始まった。
 
 翔太郎は過去、自分の手で最強の戦士を育ててみたいと思ったことがある。何の為に、と聞かれたら、正直困るのだが、簡潔に言うなら『自己満足』に他ならないだろう。そして今、その自己満足を満たすための素材を得たのだ。
 過去に我武者羅に強さを求め、その結果、山の中で暮らす以外に何も出来なくなった不器用すぎる男の、密かなリベンジ魂に火がついた日だった。




 少女と出会ってから2年程経ったある日、少女は小屋の前で不思議な光景を見ていた。
 翔太郎が家の前で黒い檻と睨めっこしているのである。いや、正確に言えば檻の中にいる『青髪の少年』と、だった。
 
 だが、その青髪少年の状態は、少女から見れば異常な光景だった。

 檻で厳重に外に出れないようにされておきながら、幾つもの鎖で縛られ、拘束具で完全に身動きできなくなっている。まるで暴れる野獣を束縛しているかのような光景だった。

 一体何が起きたのか、と翔太郎に尋ねると、彼は答えた。

『野生児だよ。狩りに出かけたら、この少年が異常な目つきで熊を食ってた。こっちにも襲い掛かってきたから、取り押さえて、檻に閉じ込めたんだが……』

 翔太郎が何処か呆れた顔で檻を見る。其処には、無理矢理こじ開けようとした形跡があり、鉄で出来ているはずの棒が力だけで曲がっているではないか。見た感じ自分とそんなに年が変わらないはずなのに、恐ろしい光景である。

 だが次の瞬間、少女は少年の入れられている檻に何か文字が刻まれているのに気付いた。其処には、こう刻まれていた。



 マーティオ・S・ベルセリオン、と。






 それから数週間経過したある日、野生児マーティオはある程度言葉を思い出し、少女と共に小屋で生活し始めていた。
 最初は少女も近寄れないほどの殺伐とした目をしていたのだが、流石に数週間したら慣れてきて、今では普通に接することが出来る。
 向こうも同じらしく、敬意を示して自分の事を『先輩』と呼んでいる。何がどうなって敬意を示されているのかはよく分らなかったが、何でも翔太郎がそう呼べ、と教えたらしい。ならば敬意を示されているのだろう。

『今帰ったぞ』

 翔太郎は『あめりか』とか言うところに行って、知人と会ってきたらしい。その為、一時期二人で留守番したのだが、どうやらそれも終わりのようだ。

『喜べ、家族が増えるぞ』

 迎えてから一言。いきなり思ってもなかった事を言われた。
 よく見ると、翔太郎は二人の少年を連れている。茶髪と、黒髪の少年だった。

 なんでも、『あめりか』の知人から預かってきたらしい。年は二人ともマーティオと同じで、見たこともない環境に戸惑っているようだった。

 翔太郎からの紹介によると、茶髪の方は『エリック・サーファイス』。もう一人の方は『切咲・狂夜』というらしい。

 何にせよ、家族が増えるのは良いことだ。これからの小屋での生活を更にいい物とするために、早くあの二人とコミュニケーションを取らないといけない。

 マーティオに『先輩』と呼ばれた少女は、笑みを浮かべながら一人そう思った。




 余談だが、エリック、マーティオ、狂夜の三人は同世代で、とても仲がよく、よく『先輩』に叱られたことから、『馬鹿デルタフォース』と呼ばれていた。




 一日の半分以上の時間が翔太郎との『授業』だったのはよく覚えている。『しんたいきょうか』とやらの為の授業らしいが、まだ幼い彼等には言葉の意味は理解できなかった。

 ただ、これだけは思った。

 翔太郎の授業は、絶対に自分たちのタメになるのだ、と。

 ご飯の時間は決まって五人揃った状態で『いただきます』で始まり、同じように『ご馳走様でした』で終わる。

 就寝時間は毎日午後10時だったのも、よく覚えている。
 全て、何もかもが当たり前。これが彼等の『日常』となり、これからもずっとこんな日々が続くのだと思っていた。





 そしてそんな滅茶苦茶な生活が10年近く続いたある日、エリック、マーティオ、狂夜、先輩の四人にとって、とても大きな出来事が起きた。


 小屋の主、翔太郎のあまりにも早すぎる死。


 早くに親をなくし、途方に暮れた事がある彼等四人にとって、翔太郎は良き友人であり、良き理解者であり、良き先生であり、何より良き父だった。

 そんな翔太郎を失ったことによって、四人は人生の転機を迎えることになる。

 先輩はパリへと飛び、ウェイトレス兼用心棒として働くことになり、マーティオはオーストラリアへと飛び、闇医者をし始め、日本でそのまま小屋に残った狂夜は、何の目的もないまま絵を描き続けた。

 そして、エリックは故郷アメリカへと飛び、親の復讐を果たすため、裏の世界へと身を投じた。


 その時、何気なく名づけた自身の仮の名が『怪盗シェル』。
 今にして思えば、全てはこの泥棒の誕生から歴史が狂い始めたのかもしれない。




「我々イシュの歴史には『怪盗シェル』という男は存在していなかった。あくまで『エリック・サーファイス』が偶然宇宙人を地球に招待してしまっただけだ」

 自由の女神の頭上。冷たい風に晒されながら、ウォルゲムは言う。
 目の前にいる全てを狂わせた男、エリック・サーファイスこと怪盗シェルを睨みながら。

「貴様、自分が何をしてきたのか分っているのか!?」

 人差し指を向けつつ、ウォルゲムは叫んだ。
 彼のいた歴史は、目の前にいるこの男のせいで破滅へと向かっていった。地球の人口は日が経つごとに減っていき、全てはエルウィーラーの『パイゼル帝国』の為だけに進んでいく。まさしく地獄のような世界だった。
 過酷な労働、家畜のような扱い、逆らえば『死』あるのみ。

「倒せる内に倒しておく。そうでなければ、この星は破滅へと向かうだろう」

「……それはオメーにも同じことが言えると思うんだけどなー?」

 仮面をつけた為に表情は読み取れないが、その声には真剣さがこもっていた。

「人類どころか宇宙人まで生贄にして邪神復活。仮に上手く行くとして、果たしてその後には何が残るかね?」

「簡単なことだ」

 そういうと、ウォルゲムは親指を真下に向ける。

「この地球のみ。俺たちイシュの目的は、『全人類消滅』にあるのだ」

 考えても見ろ。
 今まで、この地球に住み着いた人間たちは自身の住処に何をしてきた?

「地球温暖化による大陸沈没の危機。オゾン層の破壊による紫外線の増加。その他にも、人種差別、闘争本能に身を任せた戦争、もしくは権力に取り付かれた奴の暴走、とも言えるかもしれない。こんな事をしていては地球は持たない。違うか?」

「ああ、違いないね」

 意外にも、あっさりとエリックは納得した。
 だが、彼は続ける。

「気持ちは分らないでもないんだよ。俺だってそれなりに世界を見てきた一人だからね。だけど」

「だけど?」

 その瞬間、エリックは口を開いた。

「生憎、こっちは楽しみにしてる深夜アニメがあってな。今読んでる漫画だって完結してないし、コミケ出店と言う密かな野望も成し遂げてない。積んでるゲームの数も半端なくなってきたし、HPもそろそろ行きつけの大型小説投稿サイトとリンクさせときたい。そーいやチャットの皆とも夏の映画の話してなかったな。ついでに、DVDも発売間近。予約を早く取らなきゃならんし、フィギュア造形も済ませてない。そして同人ゲームも取り寄せなきゃならんし、Wikiの方にも色々と追加させときたい項目がある」

 まるでマシンガンのように止まる事を知らない発言の数々。しかも、先程からこの男は自分の趣味しか口にしていない。

「つまり、人類を消滅されたら、俺の楽しみが全部消えちまう。そんなことは絶対に許さない」

 思わず唖然とするウォルゲム。
 全く予想だにしなかった発言の数々を前に、思わず思考が凍結してしまったのだ。

「ま、待て貴様」

 ややあってから、ようやく言葉を発することが出来たウォルゲム。これだけでも相当な努力が必要だったことだろう。

「貴様は、このまま地球が宇宙人どもに侵略されても構わないと言うのか? それだけではない。このままでは、地球が持たないのだぞ」

「構わないね」

 即答した。
 迷うことなく、ストレートに、だ。

「俺から言わせて貰えばな」

 ウォルゲムがあまりにも信じられない、といった顔をしていたので、エリックは容赦なく続けた。

「ぶっちゃけ、宇宙人が仮に地球を占領したとしても、俺としては自由に趣味を満喫できれば文句ない訳だ。何なら、宇宙人にも地球産の創作物見せてみるか? あ、でも一部の作品は宇宙人が『悪』として書かれてるからな。作品は選ばないと……」

 これはウォルゲムの、いや、イシュの全くの計算外の発言だった。
 まさか自分の趣味のために自分たちの目的を阻止しに来るとは、考えもしなかったのだ。

「まあ、取り合えず俺たち共通の目的を、全員分纏めて発表するとだな」

 頭が混乱しかかっているウォルゲムを前に、彼は言い放った。

「俺たちは、まだやりたいことが沢山あるんだ。―――だから、抵抗させてもらうぜ」

 槍の穂先をウォルゲムに構え、エリックは更に続ける。

「ひたすら趣味に走る俺の愛が勝つか。最終兵器装着のために全裸になる必要があるお前の愛が勝つか」

 さあ、

「史上最低の決戦だ」






 切咲・狂夜は見た感じ、初めて会った時と何も変わっていない。
 それが竜神の第一感想だった。

(相変わらずレベル4は使えないし、仕掛けようともしてこない……はて、どうした?)

 既に決戦地は独立宣言書の真下。自由の女神の足元に移行されていた。これもアックスのパワーで押した結果である。

「ふむ」

 ソードを下ろすと、狂夜は不気味な笑みを浮かばせる。
 まるでココからが本番だ、とでも言わんばかりに、だ。

「眠気覚ましのウォーミングアップはこの程度でいいだろう」

「何。今まで本気ではなかったと言うのか?」

 疑問の声をあげると、彼は答える。

「日本で最初に戦った時、貴様はまだ力を幾分かセーブしていた。力量を確かめるのをついでに、寝坊した分の眠気覚ましだ」

 すると、彼は笑い出した。
 何か含みがある、嫌なタイプの笑いだ。

「初めての『変身』の相手が貴様と言うのもいいだろう。さあ、とくと見るがいい!」

 その瞬間、狂夜の身体中から不気味な光が放たれる。
 目の色が血のような真っ赤なものに染め上がっていき、東洋系の黒髪が紫色の変色。そして、前歯の犬歯がぐんぐんと伸びていく。

「こ、これはまさか――――!?」

 思わずうろたえる竜神。
 その理由は、アックスを通じて感じる最終兵器の波動が、前の前にいるこの男から『二つ』感じるからである。

(一つは間違いなくソードだ! だが、もう一つは何だ!?)

 アックスを持つ手に力を込め、この波動の正体を確かめる為に集中する。
 直後、狂夜の体の色の中に、一つだけ『異色』、ソードやアックスと同じ色を見つける。その一つだけの異色と言うのはズバリ、

「牙!? 奴の伸びているあの歯が、最終兵器だとでも言うのか!?」




 今から二日ほど前に話は戻る。予定よりもはるかに早く起きた狂夜を前にして、ギースは言った。

「貴方や私の一族は皆、不思議な事に、その牙を持っていました」

 鏡の前に映る変わり果てた自身の姿をまじまじと見ながら、狂夜はギースの話に耳を傾ける。

「我が主人―――貴方のお父様に尋ねてみたこともあります。その牙はなんなのでしょう、と。その牙があるからこそ、我々は吸血鬼と呼ばれるようになってしまったのではないでしょうか、と」

 そもそもにして吸血鬼、と言う比喩をギースが使ったのには訳があった。
 狂夜の一族には、どういうわけかレーザーでも焼き切ることが出来ない牙が生えていた。その特徴的な牙は、時に何かを求めるかのようにして人間の首元から血を求めたのだという。

「成る程。確かに首に噛み付き、血を吸うのだから吸血鬼、と言われてもおかしくはない。―――だとしたらギース氏。貴方に聞きたい事がある」

 鏡から振り返り、ギースと真正面から向き合う形で狂夜は問う。

「―――我は、古代人の作り上げた最終兵器の遺した末裔なのか?」

 ソードの所持者である自分なら分る。この親から子へとDNAの鎖によって複製されていく吸血牙からは、間違いなく最終兵器の波動が伝わっていることを。
 今にして思えば、ソルドレイクに貫かれても生きていたのはこの最終兵器、リーサル・ファングの最終兵器としての再生能力のお陰なのかもしれない。

「私は、その最終兵器というものが如何なる物なのかはよく知りません」

 それもそうだ。
 そう思って思わずため息をつきかけた狂夜だったが、あることに気付いて中断させる。

「ギース氏。顔色が悪いぞ。気分が悪いのか?」

 いえ、とすぐさまギースは答えるが、明らかに顔色はよくない。今にも死にそうな程真っ白な顔をしているではないか。

「我が主人、リンガル様は―――」

 優れない顔色のまま、狂夜が何かを言う前に、彼は続ける。

「もしも狂夜様が何者かに殺され、一時的な仮死状態となった場合……その状態から強制的に目覚めさせる方法を私に教えました。それは同時に、貴方の牙の封印解除にも繋がるのです」

 

―――自分の生き血を半分以上、時間をかけてゆっくりと牙に染み込ませつつ、飲ませる―――


「!!!!!!!?」

 一瞬にして狂夜の顔色が驚愕の色に染まる。
 人間は体内の血液を三分の一以上失えば、命を失うと聞く。例え牙が生えていたのだとしても、造りが違うのは其処だけで、他は人間と変わらないはずだ。そして、ギースが時間をかけて、まさしく不眠不休でこれに挑んだというのなら、

「貴方は……死してでも、我を起こすつもりだったというのか」

「いえ、間もなく私は死に至ります。不思議な事に、死期を悟るのはどうにも敏感です。待つだけの場合は特に、ね」

 もう喋ることすらままならないはずである。
 だから、彼は思わず疑問を口から吐き出していた。

「何故だ!? 何故其処までして、我を起こそうとした!?」

 理解できなかった。
 それゆえ、彼はギースを見てこう思った。

 狂っている、と。

「……」

 しかし、何分待っても、何時間経っても、答えが帰ってくることはなかった。
 それは同時に、目の前にいる執事服の男が二度と動かないであろうことを意味していた。

「……貴様が命を賭けてまで我を起こしたのだ。……父はさぞかし偉大だったのだろうよ」

 狂夜は出入り口のドアノブに手をかけ、一度だけギースの亡骸を見やる。
 結局、最後の質問には答えてもらえなかったが、この満足そうな死に様を見れば、狂夜だけではなく誰もがこう思うだろう。

「主人に忠義を尽くし、そして最後まで裏切らなかった男。――――感謝する。そして、馬鹿たれがっ」

 牙の再生能力があるのだから、無理をして起こさなくても、時間をじっくりとかければ何れ完璧に蘇ったはずだ。
 だが、封印をかけられて発動が中途半端な物では、途方もなく長い時間がかかることだろう。

 それを無理矢理解除した男、ギース。血の補給もせず、ひたすら主人の命を守り通した男。

 彼に向かい、狂夜は最後に言い放った。

「待っている友達のところへ行って来る。あの世で親父によろしく言っておくがいい!」






 フェイト・ラザーフォースと雪月花・ネオンの二人はまだニューヨークの空港に着いたばかりだった。
 ニュースで見た『怪盗シェル、ニューヨークに出現』の知らせを見て、彼と合流するべく急いでやってきたのである。

 ところが、

「あのグレイト馬鹿は無茶苦茶だ!」

 フェイトは呆れた様な、しかしそれでいて、何処か満足げに言った。

 ココに来る前、飛行機の中である臨時ニュースが流れてきた。

『これは映画の撮影でも何でもありません! 突如として現れた怪盗シェルと思われる男と鎧の男が自由の女神の頭上でアクションを開始し、それと同時に全く観測外の竜巻が発生! 警察は現地の住人に非難を呼びかけ――――』

 それだけ聞けば十分だった。
 まだフライト中の飛行機内。マーティオは安全ベルトをさも当たり前のように外し、ずけずけと偉そうな歩調で非常脱出口へと向かって行った。

『おい』

 機内の全員に聞こえるような大声で、彼は続ける。

『今からココ開けるぞ。全員、安全ベルトを着用するように』

 全員が理解不能な顔をしたと同時、マーティオは躊躇いなく非常脱出口を開放。吸い込まれるかのようにして青い空へとダイブしていった。

 その後の機内は大パニックだったが、なんとか一人の死人も出ずに到着できたのが幸いである。

「あの馬鹿はやはりグレイトだな……あのニュースを聞いただけで、エリックだと分るのか……!」

 聞いたときに、何か直感的なものが無意識のうちに働いたのかもしれない。
 だが、じっとしてられなかったのだろう。しかも幸いながらニューヨークに向かっている機内にいたのだ。ここから黒の翼で真っ直ぐ飛んでいけば、大きく時間ロスしないで飛んでいける。

 パリでの戦いが終わった後、マーティオはサウザーを思いっきり殴った。
 だが、それだけで終わったのだ。
 正直に言うと、それだけで彼女たちは驚きだった。

(あの時、身元不明死体がグレイトに軽く転がるかと思ったんだけどね……あそこで止めるとは)

 恐らく、マーティオなりの怒りのぶつけ方と、感謝の込め方だったのだろう。あくまで歪んだ形で、だが。
 
『あいつにもう一度会って、そして喋れた。例えそれが一瞬だったとはいえ、それは多分感謝するべきことだ』

 この発言だけでフェイトは思った。

(暫く見ないうちに、グレイトに男らしくなってくたねぇ……グレイトだ)

 空港を飛び出し、急いで自由の女神へと向かおうとするフェイトとネオン。
 だが、思わずフェイトは呟いた。

「先生……見てますか?」

 しかしそれは、隣にいるネオンに向けた物ではなかった。
 フェイトは虚空を見ており、そこにいる『何か』に向けて話しているのだ。

「信じられますか、先生? 形ではどうあれ、人類の運命を左右する戦いに、あの馬鹿な弟たちがグレイトに選ばれたんです」

 先生、もしかして貴方は知っていたのですか。
 私たちが、この最終兵器というものに選ばれる者なのだということ、を。

「見てますか、先生。きっとあの馬鹿軍団は人類の運命なんてどうでもいいと考えてるはずです。あいつ等は何時だって自分の事を頭に入れてるんだ。本能の塊みたいな連中なんです」

 だから、

「グレイトに信頼できるんです。あいつ等が」







 自由の女神の周囲には凄まじい衝撃波が幾つも発生している。まるで戦争でも起きているかのような激しい轟音だが、それが生身の人間の『4対4』の戦いだと知るものはいないだろう。
 
 ただし、女神の足元にいる二人を除いては、だ。

「警部……なんだか、立ち入りる隙がなさそうですね」

 それなりに現状を理解できる男、ジョン・ハイマン刑事。そして本能で現状を(思い込みで)判断する男、ネルソン・サンダーソン警部である。

「ジョン。俺は感じるぞ」

 不意に、ネルソンがそんなことを言ってきた。
 一体何を言ってるんだろう、とジョンが上を見上げた、その時だった。

「見ろ、ジョン! あれだ!」

 ネルソンが上空から落下してくる影を指差す。
 ぐんぐんとその姿はこちらへと向かってきており、時間が経つにつれ、米粒サイズにしか見えなかった影の正体が明らかになっていく。

「げっ!?」

 そして、その正体を肉眼で確認できた瞬間。ジョンは思わず唸った。
 何故かと言うと、生気を感じない顔をしているピンク髪の貞子ファッションの青年が、何時ぞやの宇宙人将軍、アルイーターと共に降って来たからである。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!?」

 アルイーターは貞子ファッションをこのまま地面に叩きつけようとしていた。たいまつで戦ったのはいいものの、この男は事もあろうか直立不動。何もしてこなかったのである。

(ならばと思って突き落としてみたんだが……)

 そしたら今度は突き落とした自分の足を掴み、そのまま一緒に落下させてきたのである。なんとも気味が悪い敵だ。

「噂には聞いていたがああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ、これが地球の、『せっきょうましーん』と言う奴かあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 落下しながら間違った知識を大声で叫ぶアルイーター。
 だが、それでいて敵をしっかりと押さえつけるのを怠らない辺り素敵だ。

「警部、アレはどうすればいいんですかあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!?」

 突然の落下物の出現に驚きを隠せないジョン。
 しかし、ネルソンは何時ものペースで、

「取り合えず、逃げるぞ!」

「は、はいいいいいいいいいいいい!!!」

 まるでカートゥーンのような走り方でその場から避難。
 直後、先程まで二人がいた場所に、アルイーターがのっかかった体勢のまま貞子ファッションがコンクリートの大地に激突。

 凄まじい轟音と、火柱のような埃を同時に撒き散らした。

「……生きてるかな?」

 辺りに撒き散った埃のお陰で視界が良好ではないが、それでも懸命に状況を把握しようとするジョン。
 だが次の瞬間、その埃によって遮られた視界の先から、ぼきっ、という生々しい音が響き、同時に誰かの断末魔の叫びが上がる。

「え!?」

 風が吹いた。

 それはジョンたちの視界を良好にする為に送られた恵みであり、同時に彼等を驚愕の顔色に染める引き金でもあった。

 目の前には先程落下してきたアルイーターと貞子ファッションがいる。だが、問題はアルイーターが貞子ファッションによって『右腕をへし折られていた』と言うことだった。

「ぐ―――あ!」

 生気のない瞳のまま、今度はアルイーターの首を絞める貞子ファッション。
 たいまつから思いっきり地面に叩きつけられたはずなのに無傷と言うのも驚きだが、一瞬にしてのしかかっていたアルイーターの右腕の骨をへし折り、しかもそのまま首を狙いに来た彼の動きは正しく神速としか言いようがなかった。

(目で見えなかった―――!)

 実際には回り込んだだけの動きだ。数歩くらいしか移動していないだろう。
 だが、視力にはそれなりに自信があるジョンの目には、まるで貞子ファッションが瞬間移動したかのように見えたのである。

「あ……ぐ、お……」

 めきめき、と嫌な音を立てながら悶絶するアルイーター。
 その目は既に焦点が合っておらず、非常に危険な状態であるのは誰が見ても明らかだった。

 此処で誰もがアルイーターの死を覚悟した、その時である。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!!!!」

 突然、近くから天地を切裂くかのような雄叫びが轟いた。
 発信源は考えるまでもない。

「へえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええんしいいいいいいいいいいいいいいいいんっ!! ぽりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいす、めえええええええええええええええええええええええええええええええええええええん、ぐれえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっと!!!!」

 相変わらずの無駄な喉の強さをアピールし終えたと同時、発信源は自身の拳を祈るように合わせる事で、光へと包まれていく。

「!?」

 その際発せられる凄まじいフラッシュが貞子ファッションに襲い掛かり、彼はあまりの眩しさに、思わずアルイーターへの首締めの力を緩めてしまう。
 それと同時、アルイーターは力なくコンクリートの大地に倒れこんだ。

「例え宇宙人といえど、この俺の前で惨い殺しを出来ると思うな!」

 光の中心から男の声が響き渡る。迷いのない、一直線の鋭い声だ。

「……誰だ?」

 貞子ファッションが睨みつけながら言うと、フラッシュの中から奇妙な影が姿を現した。
 炎のように真っ赤なマスク。逞しい筋肉の形がくっきりと分るボディー。腹の部分に『正義と愛』と書かれていて、更には手の甲には『G』と書かれている。

 そんな格好をした男は、貞子ファッションに向かって叫んだ。

「ポリスマン・グレート! 今日の天気は曇り時々台風。が、しかぁしぃ!」

 無駄に大きな動きをつけてからポリスマンは続ける。

「この俺が現れたからには、絶対にサンサン晴れマークにしてみせる! 全国のお父さんお母さんちびっ子諸君の明日のために、来たれ、たいよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 直後、アーマー出現によって暗雲が支配したはずのこのニューヨークの黒い空に、何故か太陽がひょっこりと顔を出した。

 



続く


次回予告


エリック「センセー、俺たち三人は、全力を持ってイシュを叩き潰すことを誓います! 友達を亡くして、愛した人も亡くしたけども、それでも俺たちは生きたいです!」 

マーティオ「我等、山奥馬鹿デルタフォース! 例え骨だけになっても戦い抜いてみせる! 死ぬ時は一緒だ、兄弟!」

狂夜「次回、『ツイン・ウェポン』」

ネルソン「見ないと、逮捕するのだああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」





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